渋谷区五島洋税理士事務所渋谷区五島洋税理士事務所

企業再生」を考える

 僕が独立する前、2000年の夏、まだ会計事務所の職員として働いていたときのことです。ある傾きかけている会社、青果市場の卸売業A社を担当することになりました。当時のA社の経営状況はというと、月商3,000万円、負債が1億円、毎月200万円、年間で2,400万円の赤字という状況で、借入金の返済額だけでも毎月200万円でした。いつ倒産してもおかしくない状況で、正直「厄介だな」という気持ちがあったのも事実でした。が、A社の経営再建に携わったことが、僕の税理士という仕事をやっていくうえでの方針――「困っている人を助けたい、役立ちたい」――に大きく影響を与えていくのです。

 みなさん、「企業再生」という言葉をお聞きになったことがあると思います。安定した収益のあるビジネスを手がけながら、不採算部門を抱えているために倒産の危機に瀕している企業を再生するもので、民間の投資ファンドによる企業買収などのニュースを見聞きしたことがあると思います。また、2003年に発足した産業再生機構では、政府主導によってダイエー、ミサワホームホールディングスの企業再生が行われています。また、日産のように経営者が代わることにより、資産の売却、不採算部門撤退などのようなリストラが行なわれ、企業が自主的に再生したケースもあります。

 産業再生機構などが動くケースは、その企業が倒産したら、社会的に大きな影響を与えると判断された場合であり、大企業に限定されます。(近年、中小企業再生再生支援協議会という組織が各都道府県に設置されているようですが・・・)僕がお手伝いさせていただいている中小規模の企業には、もちろん無縁の話です。自助努力によって再建していくしかありません。

 A社の話に戻りましょう。僕は、とりあえず1年間で赤字をゼロにすることを目標に、毎月の損益をチェックしていきました。給料をはじめとし、その他支出の見直し、売上重視から利益重視への方針転換を行ない、社員各人に利益率を意識してもらうよう努めました。同時に、借入をしている金融機関と交渉し、当分は金利のみの返済という形にしてもらいました。

 その結果はというと、1年で2,400万円の赤字をほぼゼロにすることを実現。2年目で700万円、3年目も300万円の利益を出すことができました。利益率を重視した成果が出たのです。ところが……。結果からいうと、その翌年、4年目にA社は倒産することになりました。

なぜか……? 利益率を重視することで、経営を引き締め、ある程度の数字を上げることはできます。しかし、それを達成してからが問題です。会社を拡大路線に舵をとろうとしたとき、その企業の存続意義――他社との差別化が要となります。A社社長も、2年間、厳しい経営状況を乗り切ったところで、ふと気が抜けてしまったのか、支出に粗が出てくるようになります。金策に追われる悪循環から、自社の「ウリ」を打ち出すことができないまま、あれよあれよという間に、会社は傾いてしまいました。

 自社の「ウリ」は何なのか?――経済が右肩上がりの時代が続いていれば、そんなことを考える必要もなく、一生懸命働ければなんとか生き延びられたことでしょう。現在は、大企業であっても、差別化策が打ち出せなければあっという間に経営難に陥ってしまいます。中小企業にいたっては、言うまでもありません。

「ウリは、自分のキャラクター」という経営者もいらっしゃるでしょう。事実、A社社長もとても人柄の良い方で、経営が厳しいときも、周りの援助を受けてしのいできたことも多々あったようです。しかし、本当のピンチを「浪花節」だけで乗り切るのは難しい。そして、大事なことは、ピンチになってから「ウリ」を考えていたのでは遅いのです。

 僕も、もう2年早く、A社の担当になっていたら、あんなに経営状況が悪いときでなければ、もっと策が打てたのではないかと、くやしく思っています。二度とこんな思いは社長にさせたくない、そして自分も後悔したくない――その一心で、いまお手伝いしている社長にはつねに明確な「ウリ」をもってもらうよう、口をすっぱくして言っています。これはもちろん、自分への戒めでもあります。

――さて、みなさんは、自分だけの「ウリ」はお持ちでしょうか?