渋谷区五島洋税理士事務所渋谷区五島洋税理士事務所

1.激安商品が氾濫する現状について

「激安商品」が生まれた背景には、社会的な要因と、それにともなう消費者の行動心理の変化が大きく関係していると考えられます。ご承知のとおり日本経済はバブル崩壊後から現在に至るまで、不良債権、デフレ、長引く不況等、依然として困難な課題を引きずったままの状態が続いています。バブル崩壊は銀行や企業に大きな打撃を与え、これまで“絶対に潰れない”といわれた銀行や大手企業の倒産が相次ぎました。また、財務内容が悪化した企業でも大規模な人員削減が行われました。

このような社会的背景の中で、消費者には終身雇用の崩壊や失業など「将来に対しての不安」が広がっていきました。そして消費者は消費を控え、そのために企業の業績はさらに落ち込むといった悪循環が生まれたのです。バブルで狂乱した90年代、いわゆる「失われた10年」以降、日本経済はこの過程を繰り返してきたのです。

こうした悪循環の中、大幅なコスト削減により生き返った会社もあります。しかし、こうした生き残り策のほとんどは大規模なリストラや賃金の低下を生み、消費者の間に広がっていた「将来に対する不安」をますます増大させました。その結果、消費者は貯蓄への傾向を強め、購買活動をさらに手控えるようになったのです。

ここで登場したのが「激安商品」です。「激安商品」というのは以前からありました。しかし、それらは「安かろう、悪かろう」という粗悪な投売り商品のイメージが強いものでした。ここでは、消費者はもちろん社会的なニーズを的確に反映した「激安商品」を扱います。具体的な事例を示しながら、これからの「激安商品」を考えてみましょう。

2.激安商品の裏事情

「激安商品」の最大のポイントは、“いかにコストを削減するか”です。コスト削減をめぐるいくつかの事例を紹介してみましょう。

(1)既製服(スーツ)

最近では珍しくない低価格スーツですが、これはSPA(=自ら企画生産、店頭販売する業態)の普及が大きく影響しています。SPAを採用している多くの企業は、国内や海外で調達した良質の素材を製造コストの安い国で縫製し、逆輸入して販売する手法を用いています。格安といわれるスーツのほとんどは中国製。国内工場のスーツの純工賃が6,000円〜8,000円なのに対して、中国なら1,500円前後。中国で生産されたスーツの品質が国内工場と遜色がない現在、このコスト差は魅力です。ただし、パタンナーはベテランのイタリア人技術者を起用するなど、さまざまな工夫を凝らしています。

(2)生花

最近、「バラ30本3,000円」など通常価格の半値以下で販売する生花店がでてきました。通常生花店は、卸売市場で商品を調達しますが、この場合、4〜5段階に渡って流通業者が介在し、店頭価格を押し上げています。これに対し、激安生花店は海外から安い商品を仕入れています。また、直接栽培農家から調達したり、花の大きさや茎の長さが基準に満たない商品(規格外商品)を安く仕入れるなどコスト削減を図っています。その他、鮮度にあわせて値段を変えるなど売り方にも変化を加えています。

(3)焼肉チェーン

BSE=いわゆる狂牛病騒動によって売上が落ち込んだ焼肉店ですが、現在格安焼肉チェーン店には、たくさんの客が集まっています。こうした格安焼肉チェーン店では従来の大量仕入の他に入札制度を活用しているところが増えています。目的は、業者同士を競争させることで、価格や品質面など、もっともよい条件のものを仕入れること。ある焼肉チェーン店では、カルビ、ロース、牛タンなど各食材ごとに仕入先を変え、いちばん安い値段で取引する業者を選んでいます。その他、肉や野菜などのカットも取引業者に依頼し、店舗作業の削減に努める店も目立ってきました。

(4)100円ショップ

100円ショップの場合、100円という価格があらかじめ設定されているため、さまざまな工夫がなされています。100円ショップの特徴は「激安商品」を扱う他の業界に比べ、商品数が圧倒的に多いこと。これを生かし大量仕入により仕入価格を低く抑えています。また生産の7割を中国など海外で行い、さらに流通についても国内の輸送には、一般の運送業者より安いコストですむ引越会社や水産会社に依頼し、コスト削減を図っています。

(5)宿泊特化型ホテル

最近人気なのが、駅前や観光地に隣接して展開する低料金の宿泊特化型ホテル。従来にない徹底した合理主義のもと、宴会場やレストランを持たず、ルームサービスの要員も置いていません。さらに、床、天井などの客室部分を海外で生産し、コンテナ単位で輸送し現地で組み立てるというモジュラー工法を採用しているホテルもあります。「安さこそが最大のサービスである」という新しい発想に基づく経営といえるでしょう。

3.激安商品の今後

最近は「激安商品」を扱わない業界を探すのが大変なほど、あらゆる分野に“激安”の波は押し寄せています。今後この波がどのように波及するか、簡単に予測することはできません。しかし、これまでの「激安商品」が「モノ」を中心としたものであったのに対し、いわゆる“サービス”に波及する傾向が強まることは否定できません。一部ではすでにその波は押し寄せています。ただし、「サービス業」の場合、海外取引によるコスト削減はできませんし、サービスカットなどによるコスト削減はそのままその業界の仕事の否定につながる恐れがあります。しかし、工夫の余地はまだまだ残されています。

偽造食肉、残留農薬などの食糧問題、環境など、消費者の「安全」「安心」への関心が高まっています。目に見えない付加価値のある「激安商品」の開発も急がれます。

「激安商品」のポイントはコストの削減。コスト削減はどの業界でも可能です。しかし、“激安”が誰にでもできるかといえば、決してそうではありません。これまで紹介してきた事例の多くがある程度の「規模」(=「体力」)を備えているからです。

「激安商品」のもう1つのポイントは、長期に継続可能な「規模」(=「体力」)です。

現実的には「規模」(=「体力」)のない“激安”には、厳しいものがあります。仮にその仕組みができたとしても、“激安”というある意味で企業の体力勝負の要素が強いものは、大手が参入してきた場合、勝ち抜くことは困難を極めます。つまり、「激安商品」というのは大手の企業にとっては大きな武器となりますが、小さな規模の会社にとっては、リスクこそあれ必ずしも武器になるとはいえないのです。

忘れてはならないのは小売店の存在です。「激安商品」と消費者を繋ぐのが小売店です。今後も「激安商品」が消費者を引きつける大きな魅力の1つであることに変わりません。しかし極論をいえば、消費者が小売店に何も期待しないなら、さらに安い店へと価格のみの勝負となります。目に見えない付加価値をいかに小売店が意識し、その売り方を工夫するか。そこに成功の鍵が隠されているといっても過言ではないでしょう。